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【えっ!?気道確保のために舌を引っ張り出す!?】そこに倒れていたのはあなたの大切な人だったかもしれない 冬場に増える心停止 いざという時のAED、スポーツ現場でも必需品 

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AED

AED 街角の奇跡―「勇気」が救った命の物語
AED 街角の奇跡―「勇気」が救った命の物語

AEDで誰かにとっての大切な人の命を救え

AED、使ったことありますか。
AED(Automated External Defibrillator)、日本語で自動体外式除細動器。

消防が行う防災・救命訓練で訓練用のものを使ったことがある人はいるでしょうが、実際の場面でAEDを使ったことがある人は極稀でしょう。
スポーツの現場ではメディカル担当はAEDの取扱訓練は受けているはずですが、実際に使った人はまずいないでしょう。
実際に心肺停止状態でAEDを使った経験がある人と同様、そういった現場に出くわした経験がある人もほとんどいないしょう。

平成27年中に一般市民が目撃した心原性心肺機能停止(心臓に原因があるもの)傷病者数は2万4,496人で、そのうち一般市民が心肺蘇生(人工呼吸、心臓マッサージ)を実施した数は1万3,672人(55.8%)です。
一般市民が心肺蘇生を実施した傷病者数のうち、一般市民が除細動(AED)を実施した数は1,103人、そのうち1ヵ月後生存者数は596人(54.0%)、社会復帰者数は508人(46.1%)となっています。

一般市民が心肺蘇生を実施した場合、生存率は実施しなかった場合に比べ1,8倍、1ヶ月後の社会復帰は2.6倍も高かったのです。
参照:平成 28 年版 救急・救助の現況


引用:救急蘇生法の指針 – 総務省消防庁

市民による一次救命は「呼吸の確認」と「すぐさま・強く・絶え間ない心臓マッサージ」

先日以下のような記事がありました。
イスラエル・テルアビブ大学の論文をもとに「スポーツ現場での一次救命処置が舌根沈下にかかりきり」という問題提議された記事です。

この論文は1990年、多くの観衆を集めたバスケットボールの試合中に倒れ、周りに多くの人がいたにもかかわらず、最初の2分間何の心臓に対する処置も受けずに亡くなったハンク・ガザーズの事故の反省から始まっている(Youtubeに紹介されている)。そしてこの処置が、「何はさておき気道確保」というアスリートたちの常識に基づくなら、今後もこの間違いが繰り返されるのではと懸念し、実態調査を計画した。 […略…] 映像を調べると、全てのケースでいわゆる「気道確保」のため、口を開けさせ舌を引っ張り出すという操作にかかりきりで、脈さえ調べられていないことがわかった。実況放送中のアナウンサーも「チームメートと医療スタッフが集まって、舌沈下を防ごうとしているように見えます」(BBCスポーツ)と実況している。 著者らが恐れていた通り、ほとんどの選手やコーチは、気道確保のために舌を引っ張り出すのが最優先という間違った常識に囚われ、それを実行していた。 […略…] 実は、世界サッカー協会やアメリカ心臓学会は、スポーツ中の発作に対する心臓マッサージの重要性を説き、しかも選手の訓練すら行っている。にもかかわらず、ほぼ全例で舌を引っ張り出そうとして貴重な時間を空費してしまっている現状から、著者らは「発作に対しては気道確保のための舌沈下防止が最優先」という常識を壊すところから始めることが重要だと結論している。
引用:運動中に起こった心臓発作蘇生に関する間違った常識

これは海外の論文で、海外の事例がもとに書かれた記事なので、日本にそのまま当てはめることはできません。

まず日本でのバイスタンダー(その場に居合わせた人:市民救助者)による応急手当や心肺蘇生法などの一次救命処置 (BLS:Basic Life Support)では、気道確保の方法は、下顎挙上(+後部後屈)です。
舌根沈下の対処法を指導することはありません。

舌根沈下の対処で器具等を使った気道確保は二次救命処置(二次心肺蘇生法 ACLS:Advanced Cardiovascular Life Support)の領域で、もはやそれは医療行為であり、一般市民やスポーツ現場のメディカルスタッフなどの非医療従事者が行えるものではありません。
メディカルドクターはその名の通り医者なので医療行為を行えますが、超急性期で心肺停止ならば非医療従事者と行えることはあまり変わりません。
まさか舌根沈下対処で心臓マッサージが遅れるなどということは日本ではまず考えられません。
死戦期呼吸を呼吸ありと判断し一次救命処置をやらなかったり、AEDがなかったりという事例はありますが。

この記事では最後にこう締めくくっています。

スポーツの秋を楽しむためにも、「発作には気道確保」ではなく、「脈による心停止診断と心マッサージ」を中心にしたマニュアルを周知させる必要があるとおもう。

記事中の、「日本でスポーツ中の心停止に対しどのような指導が行われているかよく知らないが」、という記述が全てを物語っています。
知らない前提で何を語るのでしょうか。
「楽しいスポーツの秋を楽しむためにも紹介することにした。」・・・、意味が通じません、日本の実情は知らないのだから。
一体なんのための誰のために紹介した記事なのか・・・。

少なくとも現在日本で、気道確保が再優先という指導はされていません。
JRC蘇生ガイドライン2015でも、

CPRに熟練した医療従事者が心停止を判断する際には呼吸の確認と同時に頸動脈の脈拍を確認することがあるが、市民救助者の場合、その必要はない。 ”

と明確に述べています。

ちなみにアメリカでは更に強い主張で、訓練されていない市民は胸部圧迫のみをすべきと言っています。
America Heart Association 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインアップデート2015 ハイライト

記事にあるような“

「脈による心停止診断と心マッサージ」を中心にしたマニュアルを周知させる必要がある


も日本ではありえません。
脈の確認は必要はなく呼吸の有無だけを判断し、普通でなければすぐに心肺蘇生実施です。
診断する権限も能力も一般市民にはなく、それは医療行為になるので医者以外の診断は違法になってしまいます。

一昔前までは手首(橈骨)で脈を確認するという手順もありましたが、だいぶ前に削除されています。
死戦期呼吸というのがあり、不規則で異様な呼吸ではあるもののこれを呼吸ありと判断して心肺蘇生をせず、適切な救命処置ができず亡くなってしまった例も多々あります。
女子マネジャー死亡、「呼吸」誤解? AED使ってれば

心肺停止かどうか、AEDによる電気ショックが必要かどうかはAED自体が判断してくれます。
必要ない場合は電気ショックをせず心臓マッサージを続けて下さいとAEDが指示を出します。

よくある誤解ですが心肺停止状態とは、心臓が止まっているわけではなく、心臓の痙攣状態(心室細動 VF:ventricular fibrillation、無脈性心室頻拍(pulseless VT:pulseless ventricular tachycardia)で、それを正常な心拍に戻すための電気ショックなのです。
決して止まってしまった心臓を再度動かすための電気ショックではありません。
止まっている心臓にAEDが電気ショックを与える判断はしません。

日本の現場で舌根沈下どうこうなど医療従事者の専門領域であり、一般市民やスポーツ現場のメディカルなどの非医療従事者にはほぼ無関係な話です。
すぐさま心臓マッサージを絶え間なく実施し、救急隊に引き継ぐというマニュアルは全国で統一されています。

また、

「福島県の広域行政組合のサイトでは、1)意識確認、2)救急とAED以来、2)気道確保、3)人工呼吸+心臓マッサージという順番が詳しく書かれており、このままの順序で実行してしまうと、この論文が指摘する問題に陥る心配がある。」

とありますが、日本全国で統一的に指導されている一次救命処置は同じです。
呼吸の有無を確認し、普段通りの呼吸でなかればすぐに胸骨圧迫(Chest Compression-First)、絶え間ない胸骨圧迫が最優先です。
論文が指摘する問題に陥る心配は皆無です。

蝶野正洋がAED大使就任

AEDの普及に尽力されているプロレスラーの蝶野正洋氏。
ただの名ばかり大使ではないようです。
蝶野正洋がAED大使就任「救命の基本は皆で助ける思いやりの心」

蝶野が代表を務めるNWHスポーツ救命協会は、「救急救命AED啓発活動」「地域防災啓発活動」を取り組んでいる […略…] 日本AED財団の活動理念である“3つのS”の「School=学校での突然死ゼロ」「Sports=スポーツ中の突然死ゼロ」「Social Movements=社会連携(電気ショックを5分以内に)」をベース […略…] 年間7万人が心臓突然死をする中で、2万5000人が公衆の前で倒れていると言われており、さらに電気ショックは1100人にしか施されていない現実を受けて、3人は「もっと多くの人を助けるためのAEDの使い方」「日本はAED分布密度世界一と言われているが、現場でとっさに使えるかとなると、多くの人は目にすることはあっても、触れたことがないのが実情。現場でとっさに使えるにはどうすればいいのか」などを熱く語った。 […略…] 16日付けで、蝶野が一般財団法人日本AED財団のAED大使に就任したことを発表。AED大使になった蝶野は、「自分も講習を受けて5、6年たちます。ただ何年かに一度ガイドラインが少し変わるので、その都度講習を受けると、非常に勉強になります。救命の基本は困った人がいれば、皆で助けるという思いやりの心です。知識を持っていれば、家族、パートナー、おじいちゃん、おばあちゃんといった身内の人の力になれます」とコメント。

いつ誰がどこで心肺停止になるかわかりません。
あなたの大切な人が突然出先で心肺停止になる可能性はゼロではありません。
助かったかもしれない命、適切な処置をしてもらえなかったばかりに亡くなってしまっては後悔してもしきれません。

あなたが心肺停止の傷病者に出くわす可能性も多いにあります。
そこに倒れているのは誰かにとっての大切な人。

AEDの講習は各自治体や防災イベントなどさまざまな機会に開かれています。
AEDや心肺蘇生法、応急手当は誰もが学んでおくべきで、義務教育に取り入れてもいいくらいです。
教員もみな救命処置は学びます。
教師向けに消防が救命講習を行うことも少なくありません。
その教師たちも年一回生徒や親たちに教えれば知識は伝播し、命のリレーがより強固になっていきます。

企業が従業員に積極的に救命講習を受けさせるのもいいでしょう。
避難訓練は消防法で年1〜2回行うことが義務付けられていますが、救命講習も同じように義務付けてもいいかもしれません。
運転免許は取得時に救命講習の授業がありますが、更新時など折を見てAED取扱要領を再指導していくべきでしょう。

「脈確認」や「見て効いて感じて」が省かれ「呼吸の有無」に変わり、人工呼吸は基本的にしなくてよくなり(ハンズオンリー「Hands-only CPR」)、「心臓マッサージは剣状突起の指に2本分上」や「乳頭と乳頭の間」が「胸の真ん中」に簡略化されたり、心肺蘇生法はどんどん簡単に、そして実効性が高いものへとなっています。
この変化に対応するためにも、さまざまな機会で心肺蘇生法に触れる機会を多くしていかないといけません。

まとめ

何よりも覚えておかないといけないことは、倒れた人以外にも具合が悪くてしゃがみ込んでいる人などを見つけたときに、「大丈夫ですか?」と歩み寄り声をかけるところから始まります。
いくらAEDを各所に配置し使い方を指導しても、勇気を持って歩み寄り「大丈夫ですか?」と声をかけられないと何も始まりません。
目の前で倒れている人に歩み寄ることは簡単ではなく、また慣れている人などいません。
消防や警察、医者、看護師などでもプレイベートとでは、歩み寄らないという話もあるくらいです。

人の命を助けるには「命の教育」をしなければなりません。
救命の連鎖(Chain of Survival)は、まず歩み寄りから始まるのです。
「大丈夫ですか?」という声、かけられますか?
そこに倒れている人は、あなたの大切な人だったかもしれません。

東京消防庁の心肺蘇生法手順がわかりやすいので、下記リンクで紹介しておきます。
東京消防庁<安全・安心情報><救急アドバイス><倒れている人をみたら>

参照:「心肺蘇生法ガイドラインの歴史」
BLS横浜(BLS-AED.net 横浜) 救急蘇生法講習会ブログ

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