「筋トレ」と「ダビデとゴリアテ」と日本スポーツ界と…

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筋トレと「ダビデとゴリアテ」と 

Number(ナンバー)925号 スポーツ 嫌われる勇気 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))

Number(ナンバー)925号 スポーツ 嫌われる勇気 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))

リオ五輪で歴史的勝利をおさめた7人制ラグビーから見る「ダビデとゴリアテ」

リオ五輪から採用された7人制ラグビー。
日本代表は圧倒的不利な状況の中、4位という輝かしい成績を残しました。
初戦で優勝候補ニュージーランド「オールブラックス」を破り、ケニアやフランスなど強豪国を見事撃破しました。

リオ五輪の前年でのラグビーワールドカップでは南アフリカを破るという大金星をあげ、世界を驚愕させた日本ラグビーが世界最強のオールブラックスを倒しまたもジャイアント・キリングを起こしのです。

NZ地元紙が日本戦を「オールブラックスは深刻な永遠の傷を負った」と報道

7人制ラグビーとは、1チーム7人、7分ハーフの計14分の試合です。
フィールドの広さは15人制ラグビーと同じ(サッカーとほぼ同じ)で、一人の攻守範囲はとても広く、試合後は選手がもだえ苦しむほど凄まじい運動量になります。
バレーボールやサッカーにも、ビーチバレーやフットサルといった少人数でフィールドも小さくし行う競技はありますが、7人制ラグビーは人数以外はほぼすべて同じです。

15人制を山や谷を超え岩を登り何時間も走り続けるトレイルランニングと例えるなら、7人制は短距離走、もしくは8分ほどで走りきる3000メートル障害や十種競技といえるでしょう。
同じラグビーといえども、トレランが得意だからといって短距離が得意とは限らないように、7人制と15人制ではラグビーというルールはほぼ同じでも求められる身体能力は大きく異なります。

日本では7人制ラグビーの普及が遅れ、15人制ラグビーを主軸として7人制ラグビーを兼任する場合がほとんどです。
世界では15人制と7人制で分業が進み、それぞれのプロフェッショナルが生まれる中、日本は大きな遅れをとった状態で挑んだリオオリンピックでした。

日本代表が躍進するとは関係者含めファンの大部分はまったく思いもしていなかったのが実状です。
そんな状況の中でも選手やコーチたちは徹底的に準備し、世界一と言われるハードワークをこなし、緻密な戦略を練り、個に頼らない組織戦術を確立し、勝利をもぎ取る確固たる自信を作り上げリオ五輪に挑みました。

確固たる自信を作り上げた過程はラグビーだけでなく他のスポーツや組織論にも共通し、神話の「ダビデとゴリアテ」にも繋がる重要なファクターがあるのです。
現状の圧倒的な不利な状況も、視点を変えることで大きな好転につながることがあるのです。

個でなく組織で

15人制は組織の力、7人制は個の能力と言われます。
7人制は一人が受け持つ攻守の範囲が広いので、個のスピードやパワーといった能力が発揮しやすく、パワー、スピード、体格などフィジカルで優っているチームが断然有利というのが常識でした。

フィジカルの強いチームにフィジカル勝負で挑んでも到底太刀打ちできません。
フィジカルを徹底的に鍛えても、体重100kgを軽く超え、50mを6秒前半で走る選手がわんさかいる海外勢にはフィジカルでは勝負にはなりません。
さらに技術も一段も二段も高いのです。
7人制ラグビーがオリンピック競技になったことで、世界各国で国の威信をかけた強化に拍車がかかり、日本と世界の差は天と地ほど離れてしまいました。

「日本人はスピードがあり、器用で、スタミナがある」、などといった迷信は世界と戦うときに何の意味も持たないのです。
そんな日本人の優位性など微塵もありません。

優位性といえば「生真面目で空気を読み従順」であり、その生真面目さや従順さが日本人の強みにも弱みにもなるのです。
個人技や身体能力の勝負と思われていた7人制に対し、固定概念に縛られず、世界一と言われるハードワークに誰一人文句を言わず、徹底した戦略と組織力を武器にし見事結果を残しました。

勝てないが簡単には負けないフィジカルを土台に

海外勢の強靭な肉体に真っ向勝負できないからといってフィジカルトレーニングを避けるわけではなく、フィジカルを徹底的に鍛え、フィジカルで勝負はしないが簡単には負けない土台を作ることで、はじめて技術や組織、戦術を駆使して勝負ができます。

日本人が好きな「柔よく剛を制す」や根性や気合などの精神論。
水を飲むのは根性が足りない、筋肉は重く邪魔で使えないといった筋トレ不要論などの非科学的運動論。
世界とのフィジカル差は広がり、日々進化する科学的トレーニングを取り入れる海外勢に手も足も出なくなってしまったのが日本のスポーツ界でした。

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15人制ラグビー日本代表はエディー・ジョーンズのもと、徹底的な肉体改造を行い早朝からの筋トレ、夜も筋トレでフィジカルを世界水準に引き上げました。
日本代表はトップ選手から選出されたにもかかわらず、日本代表はフィジカル強化を徹底的に行なったのです。
それほど日本人の体格は世界基準には程遠かったのです。

もともと体格が大きくない日本人が体を大きくし、なおかつスピードと持久力を増すということは至難の業で、日本スポーツ界では筋肥大とスピード、持久力は相反し、共存はできずどれかを犠牲にしないといけないと考えてきました。
圧倒的な体格差を埋めるためのフィジカルトレーニングより、技術を磨くことに重きを置いてきたのです。

しかしラグビ日本代表はエディー・ジョーンズのもと、筋肉増量と体重増量をしたうえでスピードアップ、心肺持久力全てを強化し、世界と太刀打ちできるようになりました。
エディー・ジョーンズが提唱した「Japan way」は、日本ラグビー界に一気にそして深く浸透し、さらに強度の高いフィジカル強化がアチラコチラで行われるようになりました。
フィジカルで負けていないからこそ、そのフィジカルを土台に技術と戦略を遂行できるのです。

昨今どの競技でもようやく筋トレを本格的に導入し始めました。
ラグビー界では筋トレ指導に、使えない筋肉と揶揄されがちなボディビルダーに指導を仰ぐことが多くあります。
彼らは体を使う(運動競技の)プロなのではなく、筋肉をいかに効率的につけ、脂肪を極限まで減らすかという「筋肥大&脂肪減のプロフェッショナル」なのです。

全日本柔道連盟の井上康生監督も、筋トレにボディビルダーを登用しました。
いままで独自でやっていた特殊な筋トレ(マシンに柔道着を着せて引いたり…etc)を見直し、徹底的に基本に忠実な筋トレをさせ、筋トレの本来の目的である筋肥大を追求しまし、それに加え世界中の格闘技を学び選手に体験させました。

古きにだけ固執せず、新たなものはどんどん取り入れていく。
武道精神は守りながらも、アスリートととしての科学的進化を追求しました。
日本柔道の確かな技術を、強靭な肉体でフィジカルでも叩ける肉体へと昇華させました。
フィジカル的に不利でも、フィジカルである程度戦えれば、技術力をより活かせる。
まさに「ダビデとゴリアテ」思想で日本柔道界は蘇りました。

もう日本人がフィジカルを言い訳に負けることは許されないのです。

「ダビデとゴリアテ」

逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密
逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密

日本ラグビー界に限らず、フィジカル要素が強い競技はいつでも「ダビデとゴリアテ」状態です。
「ダビデとゴリアテ」は、羊飼いの少年ダビデが布切れと小石だけで、鉄の槍を持った巨人兵士ゴリアテを倒した神話です。
味方でさえも誰一人としてダビデがゴリアテに勝てるとは思っていませんでした。
ダビデは王様が鎧や武器を提供すると提案してもそれを断り、羊飼いの仕事で使う投石だけを持ち、動きの遅い巨人のこめかみに瞬く間に小石の一撃を喰らわせてなぎ倒し、その首をはね勝利しました。

日本スポーツ界には「「ダビデとゴリアテ」の状況に似た環境がとても多くあります。
また「ダビデとゴリアテ」の状況はスポーツだけでなくビジネスや日常生活でも多く遭遇することがあるはずです。
一見、誰もが端から諦めてしまいそうな圧倒的に不利に思える状況でも、客観的に分析し的確に対処すれば不利な状況を好転できることも決して少なくありません。

既成概念にとらわれず、物事を客観的に見て、考え、不利を有利に、短所を長所に、そしておそれず実行する勇気。
これこそが日本のスポーツ界だけにとどまらず、さまざまな局面を打開する「ダビデとゴリアテ」思想なのです。
Number(ナンバー)925号 スポーツ 嫌われる勇気 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))

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